BtoBセールスの原理原則19 「E.契約活動(Closing)」-「E2.阻害要因への対応

「E.契約活動(Closing)」は、提案したお客様に対して、契約を実施するフェーズです。「E.契約活動(Closing)」の下位のレベル2は、「E1.契約の依頼」と「E2.障害への対応」と「E3.契約の合意」の3つに分けました。「E2.障害への対応」の下位のレベル3は、「E2.1 阻害要因の分析」と「E2.2 阻害要因への対策」と「E2.3 阻害要因の解消」の3つに分けました。

・E2.1 阻害要因の分析 : クロージングをかけたとき、お客様が同意してくれればハッピーですが、否定的な発言で契約に進めないこともあります。その場合は、契約が合意できなかったことに関して、率直に「何が問題ですか」「なぜですか」と拡大質問で、顧客の真意を探ります。何が合意できない内容か、最初に障害要因を明確に整理する必要があります。契約を阻害している要因を特定して、初めて有効な対策を検討することができます。ですから、最初に阻害要因を分析します。阻害要因として、人に関すること、お金に関すること、もの(商品・サービス)に関すること、情報(評判や噂など)に起因することが多いです。主な内容は次のようなものがあります。①人に関すること。付き合いのあるところから入れたい、取引関係を無視できない、担当者に決断力がない、何となく営業パーソンと気が合わない。②お金に関すること。価格が高い、予算を超えている、比較したら高かった、何となく割高そうだ。③もの(商品・サービス)に関すること。性能に満足できない、サービスが心配、計画通りの効果が出るか不安だ、他社のほうがいいような気がしてきた、どちらが良いか判断できない。④情報に関すること。もっといい製品が他から出そうだ、まだ新しい技術で安定してなさそうだ、評判が良くないと聞いた、実績がない。商談の最終段階のクロージングが上手くいかなかったときに、その原因を特定して、対策を考えます。お客様が、性能に不安を持っているのに、価格の交渉を始めても、解決にはつながりません。「人・物・金・情報」の中で、何が原因で契約が合意できないかを確認します。営業活動は、人と人とのやり取りですから、営業パーソンとお客様と相性が合わないこともあります。その場合は、クロージングの時に上司に同行してもらうか、場合によっては、営業担当を早めに変えておいた方が良い場合もあります。

・E2.2 阻害要因への対策 : 阻害要因(リスク)の対策には、予防 (事前)対策と発生時(事後)対策があります。予防対策は、阻害要因が発生しないようにあらかじめ対策を考え実行します。発生時対策は、阻害要因が発生した時に実行する対策です。
商談を進める上で、あらかじめ予想される阻害要因があるなら、事前に予防対策を実施しておきます。予防対策の一つとして、顧客から懸念事項を指摘される前に、営業パーソンの方から口にして懸念を払しょくする方法があります。営業パーソンから告げた方が顧客の信頼感が生まれると同時に、事前に通告しておけば、顧客がいろいろな心配事を思いめぐらすことが避けられます。例えば、「○○に関しては△△の御心配もおありかと思いますが、それは××することによって解決することができます。」とあらかじめ説明しておきます。他には、競合が参入しづらくするために、お客様の上の方から担当者を紹介してもらいます。それでも阻害要因が発生したら、①顧客の発言の意図(本音、真の意味)を考えます。②発言の意図が判断できたら、対応すべき問題かそうでないか、重要度を考えます。③対応すべき問題であれば、対策を検討します。④お客様に対して交渉します。
阻害要因が顕在化してからの対策は、発生時対策になります。発生時対策は次のようなものがあります。①説得。顧客の要求内容を確認したうえで、提案内容のまま進める。実施の条件は、提案内容の優先順位が高いことを再度説明できる時。投資以上のメリットがあることが説明できる時。お客様が勘違いをしている時になります。②譲歩(受容)。顧客の要求内容を、全て受け入れる。条件は、受け入れないと商談が打ち切られる時。要求内容を受け入れても利益が見込める時。顧客の要求内容が正当な時。要求内容を受け入れても他に大きな影響がない時になります。③調整。顧客の要求内容を、調整して受け入れられるものにする。実施の条件は、調整しても商談が打ち切られない時。調整しないと企業として利益が出ない時。お客様の要求が明らかに過大な時になります。④代案。顧客の要求事項を受け、別の方法や案を提案する。条件は、顧客の要求事項とは別の条件を提案できる時(商品、価格、規模 等)。別の商品や規模や価格や導入方法などなど、提案できる代案がある時になります。⑤無視。お客様が期待はしていないが試しに要求してみようと考えているものは、無視して話を進めます。実施の条件は、聞き流してして話しても問題にならない時。お客様がダメでもともとと思って発言している判断できた時になります。取り合わずに笑ってやり過ごすやり方もあります。現場では、阻害要因に対してどのような対策をとるかを決め、その対策をお客様に、どのように説明したらよいかを考えます。

・E2.3 阻害要因の解消 :クロージングでスムーズに契約の締結に進めなかった時の通常の対応は次のような手順になります。①阻害要因の質問。契約への迷いがある場合は、なにが問題なのか率直に尋ねます。例えば、「何が問題点だったのでしょうか?「なにか御懸念がおありなのでしょうか?」。②阻害要因を明確にする。顧客が述べた問題を、自分の口で整理して話す。例えば、「○○が、まだご心配だということですね。」「○○が、問題だと思っておられるのですね」。③顧客の意見を受容する。顧客の意見は反論しない。述べた問題点は一度受け入れて同意する。そして、顧客の立場に立って考える。例えば、「そうですよね。お立場を考えれば、その点が気がかりなのは、よく理解できます。」.おっしゃるとおりです。ここまでの提案では、××の点がご不安なのはよくわかりました」。④対策を説明し説得する。阻害要因をはっきりさせ、懸念がないことを説明する。問題点を解決する提案を行う。例えば、その点が解決されれば、問題はございませんか。それでしたら~~でしたらいかがでしょうか?」「御懸念の点は、○○であればよいということでしょうか。であれば~~でしたらどうでしょうか?」⑤阻害要因が解消されたことを確認する。説明した内容で問題が解消されたか確認する。例えば、「以上のご説明で、ご納得いただけたでしょうか?」「このような対応をとれば、ご納得いただけるでしょうか?」⑥契約の合意を取る。阻害要因が解決できたことを確認したら、契約のお願いを再度行う。例えば「ご納得いただけましたら、再度契約書についてご説明させていただきます。」「それでは契約をお願いいたします」。その場ですぐに解決できる問題は、その場で解決策を提案して問題を持ち越さないようにします。しかし、過大な要求の場合は、直ぐに解決案を出さずに、例えば、「私の一存では、判断できませんので、一度社内に持ち帰り、お返事したいと思います。」と持ち帰った方が得策です。お客様が時間を空けることにより、「言い過ぎたかな?」と思い、条件を考え直してくれることもあります。阻害要因の解消のため演技力を使った方が良い場合もあります。例えば、お客様からの、何とか対応できそうな要求に対して、困ったような顔をして、お客様の目の前で、会社の上司に電話をして、「お客様は、この条件であるならご契約してくださると仰っています。なんとかこの条件を認めていただけないでしょうか?」と交渉します。あらかじめ予想が付けば、事前に上司と打ち合わせておきます。このやり方は案外効果的です。

人は誰でも説得されると反発する気持ちが起きてきます。これは他人に説得されることにより「自分の自由や自主性、意思を脅かされる」と感じるからです。説得される相手のことをよく思っていない場合や自分にとって重要度が高いだと思っている課題の場合はさらに、この気持ちが強くなります。説得者に反発を感じ、説得者の求めていることと逆のことをしてしまう状態のことを「心理リアクタンス(反発)効果」と心理学では呼びます。その場合は、①複数の選択肢を提案して、その提案の中から顧客が「自分で判断して決めた」と感じるようにします。②「私の提案には、まだ不十分なところがあるかもしれませんが」と一歩引いて主張をします。そうすることで、反発を和らげることができます。しかしテクニックを駆使して説得をしても、後でお客様が冷静になって考えた時に、だまされたと感じることもあります。営業パーソンとして、自分の利益の為にテクニックを駆使して契約しても、心から仕事への満足感や充実感を得ることはできません。テクニックに頼って実績を出しても、最終的には顧客に見抜かれて、継続的に良い取引関係を継続することは難しくなります。テクニックに頼った営業活動は長続きしません。営業パーソンは、顧客の立場に立ち、顧客の役に立ちたいと考えて活動することが重要です。誠実な営業活動に勝るテクニックはありません。

カテゴリー: エッセイ   この記事のURL