BtoBセールスの原理原則18 「E.契約活動(Closing)」-「E1.契約の依頼」

「E.契約活動(Closing)」は、提案したお客様に対して、契約を実施するフェーズです。「E.契約活動(Closing)」の下位のレベル2は、「E1.契約の依頼」と「E2.阻害要因への対応」と「E3.契約の締結」の3つに分けました。「E1.契約の依頼」の下位のレベル3は、「E1.1 クロージング」と「E1.2 見積りの提出」と「E1.3 稟議書の確認」の3つに分けました。

・E1.1 クロージング : 契約を依頼する行為を、「クロージングをかける」と表現します。クロージングを依頼することは、営業パーソンとしては、なかなか言いづらいものですし、緊張もします。クロージングを円滑に行うためには、営業パーソンとして、標準的な言い方をもっていると比較的簡単に行うことができます。営業パーソンがお客様にクロージングをかける(契約を依頼する)時に使うセリフをクロージング・トークと呼びます。営業パーソン自身が使いやすいクロージング・トークを持つことは営業活動の助けになります。「お願いします。」一辺倒の営業や契約が取れるまで粘るだけの営業を見かけることがあります。お客様にしてみれば、営業の都合の押し売りなどは迷惑なだけです。ここまでのお客様への提案内容や商談の状況や反応で最適な話し方を選択します。しかしいずれも会話の最後は「ご契約お願い致します。」で締めくくります。標準的なクロージング・トーク(話法)のいくつかをご紹介します。自然と使えるように訓練します。①総括結論法。今までの提案な流れを説明し、納得していることを確認して契約につなげる 。例えば、「今までのご説明で御社のお役にたてることは十分ご理解いただけたと思います」。②二者択一法。選択肢を複数提示して、その中から最も良いと考えられるものを結論として勧めます。例えば.「AとBを比較すれば、Bの方が絶対にお得だと思います」。③仮説結論法。「もし~~なら」などの仮定の提案をして、可能であれば契約できるか結論をもとめます 。例えば、「もし、その条件が出せるとしたら、ご契約いただけますか」。④メリット強調法。導入することのメリットを強調する。例えば、「生産性が3倍になり、御社の競争力の向上に貢献します。⑤デメリット強調法。導入しないことのデメリットを強調する。例えば、「今のままのセキュリティの状況ですと、情報流失の危険性があり、流失した時の損失は計り知れません」。⑥推定承諾法。あらかじめ契約を合意された状態を前提で話を進める。例えば「それでは納品は何時がご都合がよいでしょうか」。⑦切り札提出法。今だけ、今回だけ、この商品だけ、御社だけなど、限定の有利な条件を提示して契約を促します 。例えば、「今なら決算月ですので特別な条件をご提示させていただきます」。
以上のいずれのクロージング・トークは、お客様に契約を促すための「理由の説明」になります。クロージング・トークは多くの種類がありますが、提案活動までの内容と整合性があり、もっとも説得力があるクロージング・トークを使用します。しかし最後の言葉は「ですので、ご導入をご検討ください」「ですので、ご契約をお願いします」のような、契約を依頼する言葉で締めくくります。「正直が最強の戦略」という言葉があります。クロージング・トークは多くの種類がありますが、それでも「正直」が最強のクロージング・トークです。

・E1.2 見積りの提出 : 商談を進めていく中で、検討して契約を結ぶためには、どこかの時点で「見積書」の提出が必須です。見積書も提出していないのに、お客様が検討してくれていると営業パースンが自分勝手に思い込むことは独りよがりです。経験の浅い営業パーソンは、見積書を提出すれば、検討が始まっていると思いますが、見積書を提出する状況によって意味合いが違ってきます。お客様がどのような考えで「見積書」を求めたかは確認する必要があります。 商談の初期段階の見積りは、一般的には「概算見積り」と呼ばれます。見積りを依頼する主な理由として次のものがあります。①どのぐらいの費用が必要なのか参考とするため。②今後検討するための資料程度の位置づけのため。③新年度の予算申請のため。この場合は、予算が通るか通らないかは、総務や経理に提出したのち、全体の予算や優先順位によって決定されます。また申請した予算が減額されて現場に降りてくることもあります。ですから可能であれば担当者と相談して、ギリギリの金額で見積りを出さないですむように提案します。最初から目いっぱいの金額提示をしてしまい、減額された予算が認められた時は、社内調整が大変になります。
検討段階の見積りは、一般的には「予算見積り」と呼ばれます。見積りを依頼する主な理由として次のものがあります。①他社と比較して、費用を比べるため。いわゆる「相見積もり」です。営業パーソンは、競合他社がどこか、何と比較しているのか、選定の基準は費用以外に何があるのか、質問して確認する必要があります。②認められた予算の中で、なにが購入できるか調べるため。この場合どのような基準で選定されるか確認する必要があります。
契約段階の見積りは、一般的には「確定見積り」と呼ばれます。見積りを依頼する主な理由として次のものがあります。①稟議書を書くための資料の一部として。自社の見積りだけで稟義を申請するのか、他社の見積りも合わせて資料として稟議書に添付するのか確認する必要があります。状況によってはすでに他社の商品を購入する予定で、そのための比較資料としての見積り依頼がされる場合もあります。営業パーソンとしては挽回策を考える必要に迫られますが、現実的にはかなりの困難な状況です。②契約のため。契約するための最終価格としての見積書の提出になります。近年は、3社の見積りを取り比較することが一般化されています。しかし値段だけで決められることはほとんどありません。自社の商品・サービスを導入するメリットを理解してもらう必要があります。

・E1.3 稟議書の確認 : お客様の社内規定などで一定の金額以上の物は稟議書を書き、その金額などに応じた決済区分の応じた、部署の職責の人の決済を受けて、初めて契約することが可能になります。また近年は、購入が決まった後に、購買部が金額を交渉し、契約を決める権限を持つ企業もあります。稟議書が顧客の社内で回ったからと言って安心してはいられません。顧客の社内ルールを確認することが必要です。稟議書には、担当者が書いた「導入理由」などとともに、提案書、見積書、カタログなどが添付されます。
お客様が稟議書を書いた場合の確認すべき点は次のものがあります。①稟議書の内容を確認する。決定した商品の購買の決済を得るための稟議書か、数社の比較検討した内容で決定は別の部署が行うものかどうか。その場合は、どの部署で決済されるか、決済するための選定のポイントは、自社の商品が決定される見込みなどを質問して確認します。②決済ルートを確認する。顧客のどの部署に回って決済されるかを確認します。一番決済の権限を持つ部署はどこかを確認する。③決済する人を確認する。どの部署の誰が決済するかを調べる。必要であればその人にコンタクトをとり、提案内容を説明する。④決済期間を確認する。決済が回ってから、どのくらいの期間で決済が降りるかを確認する。⑤決済の阻害要因を確認する。顧客の社内を回っていく中で、決済がストップするか、否決されることがないかを確認しておきます。大丈夫だと安心していても、競合会社がお客様に取引関係を持ちかけてきて商談がひっくり返ることや、競合会社との人のつながりが強い人が決済の中にいて稟議書が見直されることがあります。
 稟議書を書いてもらう前に、顧客の社内ルールを充分に把握しておく必要があります。また自社に有利な稟議書が回ったからと言って安心せず、競合他社の動きには注意を払います。担当者に今、稟議書はお客様の社内でどのあたりを回っており、決済がいつぐらいに降りてきそうか常に確認する必要があります。

クロージングのタイミングは難しいものです。営業パーソンが商品の説明や説得を行っているときに、お客様が契約を検討している時に見せる態度があります。それをバイイング・シグナルと呼びます。営業パーソンは顧客のそのような態度を見逃さずに、クロージングをかけます。主なバイイング・シグナルは次のものがあります。①商品の価格や性能などを確認する 。②導入後のことを聞いてくる 。③カタログや提案書を見直す。④会話がなくなり考え込む。⑤目いっぱいの条件かどうか質問してくる。⑥ 腕組みをして考え事をしている。⑦今までの商談内容を確認してくる。お客様は検討中の時は、契約しても大丈夫か不安になり迷っています。お客様は、迷っている様子で、黙っている時は、お客様は頭の中で、今までの情報を整理して、結論を出そうとしています。営業パーソンは、我慢できなくなって、何か喋りたくなりますが、そうした状況の時は、お客様が発言するまで、黙っている方が良いと言われています。営業パーソンは顧客の態度や表情にも注意を払う必要があります。態度がそわそわして落ち着かなくなる。腕組みをする。緊張感が見えるようであれば、決断のきっかけを待っている可能性があります。営業パーソンとしては、速やかにクロージングをして、迷っているお客様の決断を助けます。
クロージングをかけた時に「すこし考えさせてください」という発言はお客様からよくでます。しかし、その発言を真に受けて時間を空けても、そのあとお客様は日常業業務に追われて検討していないか、決断のリスクを避けるための発言ですので、実際に提案を検討していることは稀です。多くがそのままの状況で持ち越されます。本来、人の潜在意識は、現状を維持しようとします(現状維持バイアス)。そのほうが安全だと感じるからです。「すこし考えさせてください」と言う発言は、決断することのリスクを避けていることが多いです。「待ってください」といった本人もなぜ迷っているのか考えが整理されてないことが大半です。営業パーソンは顧客のそのような迷いを解消することが必要です。今まで検討しているということは、メリットのあること、必要だと判断しているからです。顧客は、決断するための理由付けと決断を促してくれることを営業パーソンに求めています。ですから、決断を促すために、顧客の背中を押してあげることは、営業の大切な役割の一つです。

カテゴリー: エッセイ   この記事のURL