雑筆22 アイデアを考え続ける

近年は「脳科学」でも考え続けることで、アイデアが生まれる仕組みが解明されています。考えることによって脳内のシナプスが広がり、脳のネットワークが構築されます。「シナプティックプラスチシティ(synaptic plasticity)」と呼ばれる現象です。学習や経験によって脳の結合が変化することを指します。シナプスは脳の神経細胞同士を接続する結合部分であり、情報伝達のための重要な役割を果たしています。脳は経験や学習によって新たな情報を取り入れ、既存の結合を変化させることができます。これにより、新たなつながりやネットワークが形成され、情報の処理や記憶の形成に影響を与えます。具体的には、脳が新たな情報や経験にさらされると、シナプスの結合の強度が変化します。これは、情報の重要性や使用頻度に基づいて、一部のシナプスが強化されるか、逆に弱まるかというプロセスです。強化されたシナプスはより効果的に信号を伝達し、関連する情報を結びつける傾向があります。このような変化が繰り返されることで、脳内のネットワークが構築され、新たなアイデアや思考パターンが生まれます。言い換えれば、脳は常に新しい情報に対応するために柔軟に変化し、学習や経験によってシナプスの結合を調整しています。アイデアを考え続けることや学習を行うことによって、脳のネットワークがより豊かになり、創造性や問題解決能力が向上すると考えられています。考え続けることにより、本人が意識しなくても、脳は無意識のうちにでも働いてくれています。アインシュタインの脳は、研究のため保存されています。脳の中にシナプスが密集していると読んだことがあります。

人の質問に対してAIがどんなに「良い回答」を出してくれても、人に「それを理解できるだけの知識」と「実現するだけの力」が無ければ単なる「絵に描いた餅」です。「アイデア」を生み出す作業は、当面は人の活動領域です。「考える」と言う作業は、自発的な活動です。自身で「考えよう」としない限り「考える」ことは始まりません。AIがこの先さらに発達して多くのことを「教えて」くれるようになりますが、それはあくまでもAIが考えた内容で人が考えたことではありません。そこから「どう考えてどうするか」は人の活動領域です。インターネットができてから、グーグルやアマゾンなどのインターネットを利用する企業が躍進しました。この先はAIを上手に利用する企業が躍進していくのは歴史の必然です。これからはプレイヤーとしての活動する人よりも、AIをパートナーやアシスタントとして使える人、AIをマネジメントできる人の需要がでてきます。ですから今以上に「処理する力」よりも「考える力」の重要性が増してきます。AIで無くなる仕事もありますが、AIで生まれる仕事の方が多いはずです。

「ガイアの夜明け」で、「株式会社トレジャー・ファクトリー社長、野坂英吾さんが出演されていました。大学時代に起業を志し、50のアイデアを考え、その中からリサイクルショップ事業を選びました。そして48社のリサイクルショップを回り、市場調査を行い、課題への改善策を考えたと言っていました。1995年創業、今ではグループ合計245店舗(2023年5月末現在)を運営し、専門分野の店舗運営や引越しや不動産売買やと生前整理サービスとリユース事業の組み合わせた新しい業態のビジネスや、海外展開もしています。今後は、世界中のリユース商品を、世界中のリユースショップで売るようになると思います。野坂社長のアイデアは素晴らしいです。私が従来のリサイクルショップに持っていた「安かろう悪かろうで商品に不安がある。店舗がきれいでない。買取り価格が適切どうかかわからない」などのイメージが払しょくされました。「綺麗な店舗」ですし、「信頼できる買取りシステム」です。新規事業を考える時には、ITの、プラットフォームを利用した従来の世の中にない全く新しい事業をイメージしますが、「リユース事業」は、「株式会社トレジャー・ファクトリー」創業前から、世の中には多くの企業がありました。野坂社長が、市場調査でヒアリングしたところ、商売が上手くいっていなかったところが大半でした。「厳しいから、止めたほうがいいよ。」とのアドバイスが大半だったようです。それでも、従来の問題点や上手くいかない原因をつぶせば「リユース事業」には、見込みがあると考えて事業を立ち上げました。そして大躍進を遂げています。過去には、顧客から「リサイクルショップで買い物をしたことを近所に知られ、恥ずかしいとクレームになり、謝罪したときに後から涙が出た」と言っていました。今では「トレファク」として認知されていてそんなことはなくなりました。HPの社長挨拶では「当社は、これからも世の中の変化を敏感に捉え、新しいことに常にチャレンジし続けることにより、さらなる成長を目指し邁進してまいります。今後とも一層のご支援をよろしくお願い申し上げます。」と述べています。これからもビジネスの拡大のために、新しいアイデアを考え続けることでしょう。

考えてみれば、ユニクロは、1949年に山口県で開店した「メンズショップ小郡商事」がスタートです。男性向け衣料品を取り扱う小さなお店でした。ユニクロの業態は、衣料品の製造小売です。新しい業態ではなく、従来から多くの企業があります。初期の「ユニクロ」でも、「ユニクロの衣料とは知られたくない」と思う人がいましたが、今では誰もが普通に着ています。特に冬場に「ヒートテック」は手放せません。2023年の直近の見込みは、売上収益2兆7,300億円、前期比18.6%増、営業利益3,700億円、同24.4%増です2023年5月期の店舗数は、全体で、3626店(国内807、海外1663、その他1386)です。今では、売上も店舗数も海外の方が大きいグローバル企業です。フォーブス誌が発表した2023年版の『日本の富豪50人(Japan’s 50 Richest People)』によると、資産額1位はユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正氏で、資産額は354億ドル(約4兆9210億円)です。広島の小さな衣料品店の経営者から、日本一のお金持ちになれたのは、夢のある話です。

「他の人ができたことは、自分でもできる可能性がある。」と言う言葉があります。でも、そんなに簡単な話ではありません。事業を大きく成功させる人とそうでない人とでは何が違うのか考えてしまいます。成功した人は誰でも努力をして成果を出していますが、例えば、スポーツであれば、二刀流の大谷翔平選手や100メールを9.58秒で走ったウサイン・ボルトと比較した場合、努力では埋められない差を感じてしまいます。例えば、頭脳であれば、将棋の藤井壮太さんや、相対性理論を提唱したアインシュタイン氏と比較した場合は、どうしようもできない能力の差を感じてしまいます。生まれながらの才能や肉体や遺伝子の違いはどうしてもあります。しかし、ビジネスパーソンを比較した時に、例えば、ユニクロの柳井社長と比較した場合に、もちろん才能や能力の差はあると思いますが、大谷選手との差のようにどうにもならないものには思えません。では何が違うのかと考えた時に、稲盛和夫氏は、人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力の差で生まれると言っています。考え方(正しく考えるか、間違ったことを考えるか)によって結果はプラスにもマイナスにもなると言っています。誰でもが「お金持ちになりたい」「偉くなりたい」という「利己的な欲望」は持っていますが、仕事を通して、「人々の役に立ちたい」「世の中を良くしたい」などの「利他的な望み」も持っています。成功した人とそうでない人の差は、「考え方」が決定打になるほど大きくない気がします。では何か大きな要因かと考えた時には、「熱意」の差が大きいような気がします。「熱意」を、「情熱」や「諦めない心」や「挫折に負けない強さ」や「目標を絶対に達成しようとする執念」や「努力を継続すること」や「ビジネスを考え続けること」と考えた時には、「成功者」と大きな差を感じます。「才能には限界があるが、努力には限界がない。」と言います。多くの経営者の自伝を読むと、ほとんどの人が何度も経営が破綻するような危機や人生の挫折も経験しています。それでも努力し続けています。「とても、私はそこまで頑張れない。自分ならあきらめてやめてしまう。」と感じてしまう経験をしています。「熱意」を継続するためには、「心の強さ」も「諦めない理由」も必要です。「志」も必要なのかもしれません。「志=目標」になります。それらを生み出すためには辛い経験も必要なのかもしれません。そう考えると「怠惰な自分」を自覚していますから、大きな成功は無理だったと納得できてしまう自分が情けないです。

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