プロジェクトマネジメントの原理原則6 計画プロセス群1 スコープ・マネジメント

立上げのプロセスで「プロジェクト憲章」が組織に正式に承認されれば、計画のプロセスに進みます。シャツのボタンの掛け違いと同様、最初の時点でボタンを掛け違えていれば最後までずれてしまいます。好きなPMの格言は「計画段階で汗を流すのか、実行段階で血を流すのか」「プロジェクトの成功の秘訣は、実現可能な計画を作ること」です。どちらも「計画」の重要性を述べています。プロジェクトは実行段階に入ると、予想外のことがたくさん起きます。自分たちでコントロールできるのは計画段階までです。
・計画のプロセス群で最初に取り組むことは、「プロジェクト憲章」で決めた「最終成果物」を詳細化していき、その最終成果物を作り出すための活動を洗い出すことです。「スコープ・マネジメント」の知識エリアの活動になります。「スコープ・マネジメント」の計画のプロセスは「スコープ・マネジメントの計画」「要求事項の収集」「スコープの定義」「WBSの作成」です。
・スコープ・マネジメントの計画 : スコープ・マネジメントの方針「スコープの定義、作成、監視、コントロール、妥当性の確認」方法を記述した計画書を作成します。
・要求事項の収集 : 要求事項の収集で、ステークホルダーのニーズや要求事項を決定し、「要求事項文書」を作成します。ITシステム開発の「要件定義」と同じです。お客様に、インタビューやブレーンストーミングやアンケート調査で要望をまとめます。まとめた文書が「要件定義書」です。どちらも主な内容は、「ビジネス要求事項」「ステークホルダー要求事項」「ソリューション要求事項(機能要求事項)(非機能要求事項)」「品質要求事項」などです。前職で少し要件定義にも関わりましたが、日本の「要件定義」の考え方には2つの大きな問題があると考えています。1つ目は、システムやソフトウェア開発時に、いきなり「要件定義」から入りますが、その前に「現状の業務分析」と「最適な業務プロセスの設計」が必須だと考えています。日本のソフトウェア開発では、現状のシステムへの追加が大半です。そのため「パッチを当てる」といわれる,修正や追加が頻発します。業務やソフトウェアを根本から見直しません。その結果、追加や修正で間に合わなくなったときにシステムは破綻します。まるで「ババ抜き」で最後の人が貧乏くじを引くようです。2つ目は、要件定義の基本的な概念「お客様の要望を出来るだけくみ上げて実装化する」は間違っていると考えています。コンサルを始めたころにベテランのコンサルタントに「有能なコンサルは、期待値コントロールができる」と教わりました。どういうことかというと、あるソフトウェアの機能として100の機能が実装できるとします。しかしその中で、実際に業務で使う機能は、70だとします。例えば、5名のお客様に要望を聞いたところ、Aさんは95、Bさんは85、Cさんは70、Dさんは65、Eさんは55だとします。すべての要望に応えるためには、Aさんの95に合わせなければなりません。そうすると多くの時間とコストがかかる上に、トラブルが多発します。機能としても使いづらいシステムができます。「期待値コントロール」とは、最適だと思える70のところに可能な限りお客様の要望を誘導することです。この考え方は「要件定義」では最重要です。
・スコープの定義 : スコープの定義のアウトプットは「プロジェクト・スコープ記述書」になります。主な内容は、「成果物の詳細、前提条件、制約条件、除外項目」です。ITシステム開発の「基本設計書」とほぼ同じです。
・WBSの作成 : WBS(Work Breakdown Structure )とはプロジェクトの完成に必要なすべての作業を細分化し階層的に定義した系統図のことです。作業分解図の意味です。WBSの最下位を、WP(ワークパッケージ Work Package)といいます。一般的には「タスク(task、仕事で課されたつとめ)」の方がなじみがあります。WPは「作業を割り当てられる単位、作業の進捗を管理できる単位、作業の完了判断ができる単位」まで要素分解(マネジメントしやすい構成要素まで細分化)します。WPは成果物を作成するための活動の単位ですから、「1名詞+1動詞」のように活動が分かる表現にします。例えば「イベントのプロジェクト」であれば「カタログを作成する」または「カタログの作成」、「カタログを配布する」または「カタログの配布」のように表現します。WPをどこまで詳細化するかですが、過去に似たような作業を経験しているのであれば簡単でいいでしょうし、初めての作業や複雑な作業なら細かく分解したほうがいいでしょう。1つの目安として、人が1人で作業する1週間分(40時間)の仕事量があります。WPの内容を詳細に記述したものを「WBS辞書」といいます。WBS(WP)はこの後の計画のすべてのベースになります。スコープ・ベースラインとは、組織で承認されたWBSとスコープ記述書です。ベテランのプロジェクト・マネジャーは皆口をそろえて、プロジェクトの計画ではWBSが1番重要だといいます。

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