プロジェクトマネジメントの原理原則5 立ち上げプロセス群

私は前職でPMの社内導入に関わって以来、通算20年くらいPMの研修やコンサルに携わっています。標準的なプロセスや手法やルールやドキュメントを企業のなかにインストールして、企業の組織力強化を進めてきました。このメソッドは、もともとは米国のコンサル会社が上手くいっているプロジェクトをベンチマークして体系化したものだと聞いています。私はそれを日本の実務に合わせてローカライズして展開しています。欧米は文書化が基本です。PMBOKではプロセスごとに作成するドキュメントが定義されています。天SのHPより標準的な帳票を自由にDLできるようにしてあります。
・PMBOK第6版(以降PMBOK)の立ち上げのプロセス群は、統合マネジメントの「プロジェクト憲章の作成」とステークホルダー・マネジメントの「ステークホルダーの特定」の2つです。プロジェクトの立ち上げで最初にやるプロセスは「プロジェクト憲章の作成」です。
・プロジェクト憲章(Project Charter)の作成 : プロジェクト憲章とは「プロジェクトを組織として正式に認可するための書類」です。認可されることにより、プロジェクト・マネジャーは母体組織のリソースを使用する権限を得ます。PMBOKでは、イニシエーター(発起人)かスポンサーが発行するとありますが、日本ではだいたい任命されたプロジェクト・マネジャーが書きます。Charterを調べると「貸し切り、憲章、宣言書、設立許可書」などの訳があります。個人的には「設立許可書」が一番ピンときます。「プロジェクト憲章」を作成する前の作業があります。先ずは「なぜプロジェクトが発足されたか?」を理解する必要があります。何の理由もなくプロジェクトが立ち上がるわけではありません。PMBOKでは「ニーズの評価、ビジネス・ケース(ニーズと収益)、ベネフィト・マネジメント計画書」が事前作業として挙げられています。一般的には「フィージビリティスタディ(実現可能性調査)、事業計画書」がそれにあたります。ですからプロジェクトが立ち上がる前にすでに「どのようなプロジェクトをやるか」が決まっているということです。プロジェクト・メンバーはそこからプロジェクトが立ち上がる「背景や狙い」を理解しておく必要があります。理解しておかないと、本当の目的達成のためでなく、成果物を作り出すための単なる作業になってしまいます。この状態を「対象の自己目的化」と言います。私が現場のプロジェクトで最初にやることは、プロジェクト・メンバーで「今回のプロジェクトの内容を300字にまとめる(英語では100Wordss)」ことです。ホワイトボードか模造紙を使い話し合ってまとめて意思統一を図ります。主な内容は「プロジェクトの背景・狙い、依頼者、成果物、成功や管理用の判断基準、当初の納期と予算」などです。そして、プロジェクトで「やる事とやらない事(インスコープとアウトスコープ)」「絶対必要なこと(Must Have)とあればよい事(Nice To Have)」「除外項目」を明確にします。それから「プロジェクト憲章」を作成します。「プロジェクト憲章」の主な項目氏以下になります。「プロジェクトの目的、成功基準、要求事項、主要成果物、リスク、マイルストーン、予算、主要ステークホルダー、終了基準、そして、前提条件、制約条件、除外項目」などです。PMBOKには、前提条件、制約条件、除外項目は入っていませんが、書くことをお勧めしています。除外項目は、例えば「この機能は除く。保守と管理は含まない」などです。除外項目は、プロジェクト・オーナー(発注者)に承認を取ります。そうしないと「スコープ・クリープ(Scope creep)プロジェクトのスコープが当初の計画より、管理されずに拡大すること」のリスクがあります。「プロジェクト憲章に「除外項目」を入れることを強くお勧めしています。プロジェクト憲章は任命されたプロジェクト・マネジャーとプロジェクトの承認者がサインをして、プロジェクトが組織に正式に承認されます。
・ステークホルダーの特定 : ステークホルダー(Stakeholder)は通常「利害関係者」と訳されます。プロジェクトには多くのステークホルダーが存在します。プロジェクトに対する影響度により優先順位と対応方法を決める必要があります。優先順位を決める一般的な分類方法は、「権力と関心度(関与度)」が高いか低いかのマトリックス分析です。それにより情報を伝える頻度や内容、対応方法などを決める必要があります。ステークホルダーを分析した結果は「ステークホルダー登録簿」にまとめます。「ステークホルダー登録簿」の主な項目は「識別情報(どこのだれか)」「評価情報(要求事項、影響度)」「分類(社内か社外か、応援者かアンチか)」などです。ビジネスは人と人とが行うものですから、「ステークホルダー登録簿」はプロジェクトの期間でも役立ちますが、リピートオーダーや次の商談の時にも有力な情報になります。絶対に作成したほうが良い帳票です。

カテゴリー: エッセイ   この記事のURL