雑筆8  心理的安全性が低い組織

 心理的安全性が低い場合に発生する不都合な事例として、テレビで取り上げられていた「クラシエ」を例にして考えてみます。私はクラシエと言う会社は知りませんでしたが、知っている商品は数多くありました。番組を見ると、クラシエの前身の会社は「カネボウ」の一部門でした。100年以上の歴史があった日本を代表する企業だった旧カネボウは、2003年に、中間期で629億円の債務超過に陥り。その後、産業再生機構に支援要請、粉飾決算公表、上場廃止、元取締役逮捕などの末に、20007年にクラシエとして再スタートしました。旧カネボウの事業のうち、日用品、医薬品、食品事業を継承した会社で、いわば「カネボウ」の中では、亜流(どこも引き取り手のなかった)の部門の寄せ集めです。

2018年からは、ヘアカラー最大手のホーユーの100%子会社のクラシエは、現在は、シャンプー・ボディソープなどの日用品、漢方薬を中心とした薬品、菓子・アイスなどの食品事業を展開しています。クラシアグループの2021年12月期の売上高は944億円、営業利益は91億円、グループ従業員数は1738名(2021年12月末時点)となっており、見事に復活しました。ホーユーグループの2022年決算の業績は、グループ売上高は510億円、営業利益は22億円、グループ従業員数は1056名となっています。子会社のクラシアの方が、売上も利益も大きくなっています。良い買い物でした。「カネボウ」と「ホーユー」には、少しご縁を感じています。前職の会社の名古屋支店で営業をしていた時、向かいの大きなビルの全部が「カネボウ」のビルでした。ビルの上に「カネボウ」の大きな看板があったことを覚えています。「ホーユー」は営業で担当させていただきました。愛知県の長久手町に工場がある、当時は、それほど大きな企業ではなかった印象が残っています。今回、試しに「クラシエの漢方薬」を買ってみました。漢方薬の匂いがして効きそうです。

 テレビ番組で、クラシエの岩倉昌弘(いわくら・まさひろ)社長が、「クラシエ」をスタートした時の願いは、「毎月給料が出る」「ボーナスが出る」「朝起きたら新聞記事を見て悪いことが書いていない」。『普通の会社』になりたいということでした。「要は、カネボウの真逆をすればいいだけです。当たり前のことに戻すだけで、この会社は絶対良くなると思っていました」と言っています。クラシエの「私たちの約束」は、1.きょう、人のこころにさわる。何回「ありがとう」といわれたか。2.仕事に厳しく、人にやさしく、仲間を信じて共に成長する。3.上司の方を向くな、一番厳しい生活者の目を持つ。4.なぜ、なぜ、なぜ、現場、現実、現物に質問し続ける。5.すぐやる。やり切る。世の中とデットヒートを。6.挑戦者になる。デキルことだけやっても一流になれない。7.正直でいる。透明にする。次の100年を刻むきょう。です。

 「カネボウ」の真逆を行うということですから、当時のカネボウがどのような会社だったかと想像すると、1.お客様のことは考えない。顧客目線のない組織。2.自分に甘く人に厳しい。利己的な組織。3.上司の顔色をうかがう。内向きの組織。4.現場を無視する。改善しない組織。5.面倒ごとは後回し。責任を明確にしない組織。6.新しいことはやらない。前例踏襲の組織。7.都合の悪いことは報告しない。隠ぺい体質の組織。です。過去のカネボウが、心理的安全性の4つの因子、「話しやすさ」も「助け合い」も「挑戦」も「新奇歓迎」もない組織だったことが想像できます。こうすれば企業は破綻するという典型です。「企業が無くなる」のは当然だとは思いますが、現実には、このような企業は、たくさんあります。次のカネボウになる可能性のある企業です。問題を起こしている企業の多くは、カネボウと似たり寄ったりなのではないでしょうか。JALを再生させた稲盛和夫氏は、「組織はトップの器以上にならない」と言っています。「心理的安全性」が高い組織になれるかどうかもトップ次第です。

「心理的安全性」のマネジメントの良い例として、日本中が歓喜に沸いた「WBC栗山ジャパン」の栗山監督のマネジメントが思い浮かびます。日本のマネジメントの概念が、大きく変わりました。新しい時代のマネジメントのお手本です。「俺の言うことを聞け」的な昭和の封建的な体育会系マネジメントとは真逆です。栗山監督は、「僕が思っているリーダー論の一番目は、人に担がれるかどうかです。人がこの人を手伝ってあげようと思ってくれるかが、最大の成功要因です。自分が裸になって、なんとか一生懸命、この会社をみんなのためにやってあげようという真摯な姿があれば、能力があろうとなかろうと、手伝ってくれる人は必ず出てきます。」と言っています。日本ハム監督時代の選手は、「監督は、一言で言うなら、選手想い。絶対に選手を批判したり、信用をなくしたりはしない。ずっと信用し続けてくれる。そういう監督でしたね。この監督のためなら、体がつぶれてでも投げたいと思える人でした」と語っていいます。栗山監督は、常に選手をリスペクトしています。世界を制した選手たちに対しては、「野球じゃないんです。選手たちは人としてすごかった。人間として素晴らしい人が一生懸命、必死に何かをやると、人に感動を与えられる。見た人が『頑張ろう』って思ってくれる。」と言っています。「WBS栗山ジャパン」は、まさに選手全員に担がれていました。
最後は相手を思いやる利他の心です。ここまでくると結局は人間(力)性の差、人としての魅力の差になります。付け焼刃でどうにかなるものではないです。日々の自己研鑽から生み出されるものです。WBCで14年ぶりの世界一になった栗山監督は、移り住んだ北海道・栗山町での優勝報告に、自ら軽トラックを運転しジャージ姿で訪問しています。どんな高級車と高級なスーツよりも格好いいです。

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