BtoBセールスの原理原則12 「C.調査活動 (Survey)」-「C1.お客様の関心事」

「C.調査活動」は、お客様に提案するために、まずはお客様の関心事や課題を理解します。そしてお客様から提案することの合意を得るフェーズです。「A.事前準備」でインターネットや「顧客起点の3C分析」で予想したお客様の問題・課題は あくまでも「仮説」です。それが正しいかどうかは、お客様に直接質問(ヒアリング)して検証します。
レベル1の「C.調査活動」の下位のレベル2は「C1.お客様の関心事」と「C2. 課題の把握」と「C3.提案の判断」の3つに分けました。「C1 お客様の関心事」の下位のレベル3は、「C1.1 職位の関心事」と「C1.2 職種(部門)の関心事」と「C1.3 個人(担当者)の関心事」の3つに分けました。お客様の職位や職種や価値観の違いによって、関心事や課題認識が違います。それを理解したうえで、質問や対応を決めることが必要です。

・C1.1 職位の関心事 : 面談するお客様の職位(役職)によって 関心事(課題認識)が違います。会社の経営への関わり度合い、権限、仕事の範囲が違いますから、関心事が違います。たとえば、営業関連であれば、①経営者、役員は、会社の方向性や発展などの経営課題に関することや、業績全体に対する関心事が強いです。経営レベルの関心事になります。その下の、②営業部門の部門長は、統括している部門の売り上げや組織の運営などに対する関心事が強いです。組織レベルの関心事になります。③マネジャーや個人は、チームや個人の売り上げです。個人レベルの関心事になります。面談する相手によって関心事が違いますから、相手に応じて、話題や質問する内容を変える必要があります。
経営者や役員の関心事(課題認識)は、戦略ベースになります。企業が今後向かうべき方向性や事業の基盤をどうするかなどの全社的な計画です。事業の拡大、事業継続のリスク、業界や市場の位置、競争力、何に対して投資するかなどになります。営業部門長の関心事(課題認識)は、戦術ベースになります。部門の売り上げの拡大、競争力の強化のための手段や方法、競合他社との差別化などに関することです。マネジャーや担当者(チーム・個人)の関心事(問題意識)は、施策ベースになります。売り上げを上げるためには、どうすればよいかなどが関心事になります。業務の役割が中心になります。
面談する相手によって、関心事(課題認識)が違います。経営者に部門の経費節減の話をしても関心を持ってもらえませんし、担当者に企業経営の課題を聞いても、適切な答えは返ってきません。営業パーソンとしては、面談する相手にあった話題、関心事に合わせた課題を聞き出すことが必要です。また、確認したいこと、聞き出したいことが、はっきりしているのであれば、それを聞くのに適切な相手と面談する必要があります。

・C1.2 職種(部門)の関心事 : 部門によって各々役割が違いますから、関心事や課題認識も違ってきます。主なスタッフ部門の役割と関心事は以下のことが考えられます。①総務部門の役割は、会社の各組織が円滑な活動が行えるように、日常業務を処理する部門です。社内の契約や支払いの窓口になることが一般的です。関心事は経費や事務処理の効率化などです。②経理部門の役割は、財務情報の作成や経営に関するお金のことを統括しています。お金を管理する部門です。関心事は財務管理に関すること、経理情報の迅速な処理などです。③人事部門の役割は、労働環境の整備、昇進昇格、採用や労使関係の調整、人材育成も担当します。人に関することを担当する部署です。関心事は、優秀な人材の確保や社員の能力の向上、モラルの向上などです。④企画部門の役割は、市場調査などのマーケティング活動、製品の企画などです。会社の長期短期の計画の作成する部門です。関心事は、企画のための情報の収集と管理です。⑤生産管理部門の役割は、製品の品質管理、コスト管理、製品の生産計画の作成などです。良い製品を安く早く作れるように計画する部門です。関心事は、迅速な計画の作成、効率的な製造ライン、製造の品質の向上。部品コストの削減、などです。
主な現場部門(ライン機能) の役割と関心事としては以下のことが考えられます。①営業部門の役割は、商品・サービスを顧客に対して販売活動を行うことです。顧客との接点を持つ販売部門です。関心事は営業の競争力の強化や効果的な販売促進活動などです。②物流部門の役割は、受注した商品を顧客に確実に届けることです。商品の在庫管理や配送業務を担当する部門です。関心事は正確な在庫管理や、効率的な配送業務です。③設計製造の役割は、高品質の商品を適正な価格で製造することです。商品の製造を受け持つ部門です。関心事は、製造期間の短縮、開発期間の短縮などです。
現場の、問題や課題をヒアリングするときは、部門の関心事を理解しておく必要があります。

・C1.3 個人(担当者)の関心事 : お客様との商談の窓口は、多くの場合は特定の担当者によって行われます。ですから商談の進み具合や難易度は担当者によって大きく変わります。積極的に情報収集をしてよい提案だったら取り入れようとする担当者もいれば、会社にとってメリットがある良い提案でも、まったく興味を示さない担当者もいます。私の経験でも担当者の価値観の違いで、スムーズに商談が進んだことも、苦労したこともあります。担当者の考え方や価値観を理解したうえで対応を考えの必要があります。
心理学者アブラハム・マズローは、人間の欲求(価値観)を低次から高次の順に5段階の階層に分類しました。これは「マズローの欲求五段階説」と呼ばれています。すべての人はこの5つの欲求を持っていますが、人によって。階層の欲求の強さが違います。私は、それによって人の判断や行動が変わると考えています。商談の中で、担当者が5段階の欲求の中で何が強いのか判断して対策立てることも必要だと考えています。独断と偏見ですが、私の階層別の人に対する見方と対応は以下になっています。①生理的欲求(Physical)の強い人。無気力な傾向、やる気が感じられないタイプです。余計な仕事は、一切したくないと考えています。提案しても検討してもらえません。対策は、この担当者といくら話していてもらちがあきませんので、上司にメリットのある提案だと理解してもらい、検討するように指示してもらいます。②安全の欲求(Safety)の強い人。リスクを心配するタイプです。慎重な傾向、秩序を重視します。対策は、不安点を解消する。決定に顧客の多くの人を巻き込むことにより、責任回避できるような状況を作り出します。③社会的(所属)欲求(Social)の強い人。人間関係を重視する傾向や評判を気にするタイプです。本人は積極的には検討しないが、周りの要望には答えようとします。対策は、社内の要望として説明する。お客様の使用先などから、担当者に要望を伝えてもらいます。④尊厳(承認・自我・自尊)の欲求(Esteem)の強い人。プライドが高い傾向、認められたい欲求が強い。自分に自信のある人が多いタイプです。尊重されたり頼られたりすると喜びます。対策は、実施することにより評価が高まることを伝えます。⑤自己実現の欲求(Self-actualization)の強い人。会社や社会に貢献したい意識が強いタイプです。謙虚な姿勢の人が多い印象です。対策は、提案を実施することにより、会社に貢献できることを説明します。会社にメリットのある提案だと説明します。
商談は、人と人とのやり取りですから、担当者が、マズローの欲求5段階の中で、どの欲求が最も強いかを分析をして、対策をとることは私の経験では意外と役立ちます。

営業活動を行っていると、必ず苦手な(嫌いな)お客様と好きなお客様ができます。人間は、感情の生き物ですから避けられないところはありますが、そのせいで、営業活動に差し障りが出てしまうこともあります。「好き・嫌い」の心のメカニズムを理解しておくことは、解決の助けになることもあります。心理学では、人の好きになるか嫌いになるかは、プラスまたはマイナスの感情が、何らかの原因で人に結び付くことが原因とされています。最初から誰かのことを、好きや嫌いになるわけではありません。出会いから、何らかの出来事で、好き嫌いの感情が生まれると考えられています。最初の印象もありますが、人との関係が発展していく中で、生じた感情が人に対する好き嫌いに結び付きます。何らかの原因でうれしい気持ちが起きれば、そのことでその人のことを好きになり、いやな気持が起きれば、嫌いになります。さらに好き嫌いの感情は、簡単に人から人へ、物から人へ、物から人へ、人から物へ転移します。好きな人が好きなものは好きになる。嫌いな人の好きな人は嫌いになる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い。の例えのように感情は転移します。こうした感情の転移から好き嫌いを説明しようとすることを心理学では「強化情動モデル」と言います
嫌いな人に対しては、自分が嫌っている部分だけ目立つように見え、その人の望ましい部分は気がつかなくなります。記憶も悪いことばかり思い出します。誰かを嫌いになると、自分の感情と同じものを相手も感じていると思い込む傾向があります。これを精神分析では「感情の投影」といいます。誰かを避ける理由として「嫌われているから」という理由は、本当は自分が相手を嫌いな気持ちを相手のせいにして、自分を正当化して、相手を悪く言う罪悪感から逃れる「防衛本能」になっています。営業パーソンは自分が苦手だと感じた顧客に対して、顧客に嫌われていると思うことがあります。「嫌いな気持ち」や「苦手意識」は、相手を好きになると解消します。それが出来ればと思いますが、避けるのではなくて、できるだけ訪問して、相手の良いとこを探すことが対策になります。

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